深い世界の入り口
出身は山梨県都留市。立命館大学へ進学し、経営学を専攻しました。入学した頃はお酒を飲める年齢でもなかったし、それほどビール業界のことも知りませんでした。経営に興味があったわけで、まさかビールの世界で働くことになるとは思っていませんでした。
ビールの世界に興味を持ったのは、クラフトビールを専門に取り扱うレストランでアルバイトをしたことがきっかけです。それまで、僕の中でビールのイメージといえば黄金色にピカピカ輝くいわゆる“ラガービール”限定。ところがバイト先で出会うビールは、白く濁ったものや、黒い色をしたビールなど、見た目からさまざま。さらに種類やスタイルがいくつもあって、生まれた国も、原料も、製造方法も…と、とんでもなく広く深い世界だった。「これは沼だ」と直感しましたね。
それで、大学2年生が終わった頃には休学を申請。ドイツのバンベルクに留学することにしたんです。どうしてドイツかというと、当時の僕の中では「ビール=ドイツが本場」というイメージだったから。つまり、ビールを楽しむための留学です。

あわよくば、そのままドイツで…
バンベルクでは、ホームステイをして語学学校に通っていました。学校がある日は朝9時から1時まで授業。そのあと語学学校の友人や先生とランチに行き、さっそく1杯。ドイツなどヨーロッパ地方では、昼からみんな気軽にビールを飲みます。ビールが国に根付いているというか、暮らしに根付いているというか。文化的な側面を感じ、いっそうドイツもビールも好きになりました。
ところでこの「ビール留学」、欲を言えば1年間行きたかったんですよ。あわよくばドイツのブルワリーでアルバイト…なんてことも考えていました。でもそう簡単にはいかなかった。ドイツ語での日常会話もままならない日本人の若者は、ほとんど門前払い。トライはしましたが、難しいのが現実でした。
滞在期間中のもっとも刺激的だった経験は、実際にビールを造らせてもらったこと。「ビアガーデンに行こう」と誘われて向かったのが、ビールの窯が置いてある友人宅の庭でした。まさかの、“ビアガーデン=ビールを造るガーデン” だったんです!これも、ビールが生活に根付いているからこそなのか?ビール会社に潜り込むことはできなかったけれど、本物の“ビアガーデン” でビールを造る経験ができ、心底行ってよかったと思っています。
大学3回生、コロナ禍の就活
帰国してからの残りの休学期間は、大阪のブルワリーでインターンをしました。休学中は「ビールを楽しみながら、ビール屋で働く」という時間にしたかったので、その目的に従いました。
そして、復学前の2年生の終わり頃にコロナウイルスのパンデミックが発生。大学は休校続きで、緊急事態宣言によってビアバーも営業停止。授業は非接触のオンライン形式となり、学校もバイトもない。こうなったら大阪に居続ける意味はないですから、山梨の実家に戻ることにしました。
その頃僕はすでに「クラフトビール業界で働く」と決めていた。採用が不定期な業界ですから、就活のペースが周囲と完全に違っても焦ることもなく、虎視眈々と情報を追いかけていました。就職先のブルワリーは全国どこでもいいと思っていました。場所を問わず、自分が美味しい!と思ったビールを造っている会社で働きたいと思っていました。
僕が受けたうちゅうのインパクトについて
僕がうちゅうを初めて飲んだのは2019年。渋谷のコーヒー店で飲んだ「宇宙エール」と「ARCTURUS(アークトゥルス)」の2種類です。それがもう、群を抜いて美味しかった。
そもそも、「Hazy IPA」をメインで造っているブルワリーは当時の日本でもかなり珍しかった。もう、本当に衝撃的な出会い。「このブルワリー、面白い!マジで美味い!」と感じましたし、将来自分もこのブルワリーで働きたいと思いました。それ以来、うちゅうを飲んで楽しむことはもちろん、うちゅうが主催するキャンプイベントにも顔を出し、いちファンとして思いきり楽しんでいました。
楽しくて、美味しくて、拠点は地元の山梨。そんなの絶対入りたい! と、思っていた矢先、SNSで醸造家の募集を発見しました。うちゅう愛で履歴書を埋め尽くして、ドキドキしながら面接に訪れ、うちゅう愛を伝えましたね。

感覚を近づけていきたい
うちゅうの一員になり、最初の仕事は工場の掃除と商品検品。仕込みに携わるようになったのは、働きはじめて2年くらいの頃からでした。勤めて4年経った今は、仕込みからドライホップ、完成したビールをタンクに移すための遠心分離作業とか、仕込みからカンニングまでひと通りを担当しております。
僕、ビールは神聖なものだと思っています。仕込みをするときには「いいビールができますように」と手を合わせるんです。というのも、ビールの発酵に使うイースト酵母。彼らは生きものなので、同じレシピでも完成形を完璧に同じにすることは難しく、バッチによって違いが生じます。とは言え、うちゅうでは同じ銘柄でも毎回レシピは変わりますが。朝早く誰もいない時間に静かなブルワリーの中で、ポコポコという発酵の音などを聞くと、生きものを取り扱っているという緊張感や、醸造の神秘性を感じます。
昨年は隊長と一緒に、アメリカまでホップのセレクションに行きました。自分が実際に嗅いで「これがいい」と思ったものがビールに使われることはもちろん、隊長と近しい感想を持てたことも嬉しかった。マインド的にも感覚的にも、隊長に近づけたいと思っています。

うちゅうのコアをつくるもの
クラフトビールの魅力に気付いてから辿り着いた今は、やりたかったことができている。居たかった場所にいられている。だから、つらいこともないし、別の仕事を考えたこともありません。
もちろん、お客様に”見えている部分”は、意図して”見せている部分”でもある。だから、インナーはちょっと違うかもしれない。でも、その”お客様には見えていない部分”こそ、製品の「質」につながる部分だと思っています。
ビール業界は一見キラキラした華やかな業界に映ることも多いと思いますが、その実は泥臭く、日々淡々と迅速な試行錯誤の繰り返しです。それこそが、ビール造りの楽しさであり、僕がうちゅうを好きなポイントの一つでもあります。その泥臭い部分、お客様に見えない部分が「どうしてかわからないけどうちゅうのビールを飲んだらめちゃくちゃ美味しくて、元気をもらえる!」という評価やGood Vibesの波及につながっているのかな? と僕は思うんです。
うちゅうは、情熱を感じさせたり、人に活力を与えたりというビールを目指している。僕も、自分自身がうちゅうを飲んで感動したときのように、ポジティブな衝撃を人に与えられるようになりたい。クラフトビールの魅力を伝え続けたいし、うちゅうの成長を支えるキーマンとして、ここで活躍していきたいです。

志村康平
文章:小栗詩織